高付加価値植物の生育制御 -サフランの生育制御
サフラン(Crocus sativus L.)の可食部分は柱頭であり、柱頭を乾燥させ生薬や香辛料、染料などに用いられている。9~10万個のサフランの花から5 kgの雌しべが収穫され、乾燥すると約1 kgとなる。また収穫時期は年に1回であり、収穫作業は手作業である。このように収穫量が少なく手間がかかることから高値で取引されている。また日本薬局方に登録されていることから、日本薬局方に示されている基準を満たしていれば、医薬品として扱うこともできる。厚生労働省によって定められた医薬品としての公定価格であるサフランの薬価は1 gあたり354.00 円である(2016年1月20日現在)。日本の伝統薬である漢方薬の有効性に関する研究の進歩などにより漢方薬の認知度が上がり、漢方・生薬の製剤などの需要は増加しており、サフランも同様に増加傾向である。このように高値で取引され、薬としてだけでなく食品等としても扱うことができる汎用性の高さから、サフランに注目した。 サフランは主にイランで生産されている。国内では大分県や熊本県で主に生産されている。栽培方法は露地栽培と室内栽培(室内採花法または籠栽培)がある。採花栽培に用いる球茎はなるべく大球を用いる。それは球重量の違いにより開花率が異なるためである。20 g以上でほぼ100 %開花する。サフランは日本では降水量が多いため、掘り上げた球茎を風通しがよく直射日光を避けた室内に静置し、開花させる室内栽培という手法が行われている。室内栽培は天候に左右されないで摘花作業を行うことができ、病害の発生が少ない、植え付け前に摘芽を行うことで細小球に分球することを防ぎやすいといった利点がある。また、大分県竹田市で室内栽培されるサフランは乾燥重量中15 %のクロシンを含有し、他地域のサフランに比べて高含有である。しかし、露地栽培に比べ球茎の増殖率が低い、良質な球茎が得られにくいといった短所がある。露地栽培と室内栽培のどちらの場合でも、定植する際の球茎選抜には球茎重量や球茎の大きさを基準としている。実際、球茎重量が大きくなるほど、花の数が増加するという報告がある。そのため、サフランを植物工場内で効率的に栽培するためには、良質な球茎を収穫することができる環境条件を解明する必要がある。 サフランは日本薬局方に登録されていることから、医薬品としても扱われている。ヨーロッパでは古くから鎮痙剤、通経剤として用いられてきた。中国ではうつ状況、恐怖、恍惚、呼吸障害、ヒステリー、吐血、悪寒、閉経など駆瘀血薬として用いることが「本草綱目」に記されている。日本では明治19年にはじめて試作された。生薬の用途としては鎮静、鎮痙、通経、止血、芳香薬として使われている。 サフランの主成分は赤色のカロテノイド色素、苦味配糖体のピクロクロシン、香りのよいサフラナールなどである。カロテノイド色素にはクロセチンに4分子のグルコースがついているクロシンという物質があり、これがサフランの薬効の主成分である。クロシンは光合成産物がメバロン酸経路または非メバロン酸経路を経て、β-カロテン、ゼアキサンチン、クロセチンを経て生合成された物質である。サフランの薬理活性に関しては様々な研究が行われており、抗腫瘍活性だけでなく、うつ病や月経症候群、心血管関連疾患、不眠症などにも効果があるという研究が報告されている。 本研究の最終的な目的は完全制御型植物工場内におけるサフランの最適栽培環境条件の解明、栽培方法の確立を行うことによって植物工場の採算性向上に貢献することである。サフラン柱頭は大量生産ができないので希少価値が高く、生産量に比例して利益が増加する。このため栽培期間を短縮して生産量を増やすことにより採算性の向上が見込まれる。この期間短縮のためには多くのクロシンが得られる良質な次世代の球茎である子球をできるだけ早く得ることが不可欠である。そのため、良質な子球を早く育成するための環境条件に注目した。 これまでに温度環境に注目して実験を行い、子球形成期間、子球肥大期間の子球育成のための最適な温度環境を解明した。しかし、栽培期間に337日間必要であり、依然として栽培期間が長いままであった。良質な球茎収穫及び子球肥大期間短縮の実現のために、子球肥大期の光質(R/FR比: 波長600 nmから700 nmと波長700 nmから800 nmの光量子束比)に注目して子球を育成した。また収穫した子球を開花させることで、子球が受けた環境条件が開花、柱頭重量およびクロシン含量に及ぼす影響を検証した。その結果、シュート長、子球最大径、球茎重量、柱頭乾燥重には有意差は見られなかった。しかし、子球形成が完了して直ちに低R/FR比光源を使用することでシュート長および子球最大径が増加する傾向が見られた。また、低R/FR比光源区で育成した球茎から収穫した柱頭のクロシン濃度は蛍光灯区より有意に大きくなった。これにより、子球肥大期に低R/FR比光源で球茎を育成することでクロシンを多く得られる良質な球茎が育成できる可能性が示唆された。 |